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今だけ!!マザッチョの壁画を間近で鑑賞!

ブランカッチ礼拝堂・壁画修復現場の足場に上れる!!

こんな近くで,目の前目線の高さで、マザッチョの【楽園追放】を見てしまったーーーーー❢❢❢

これすごいんですよ。 

美術好きの方には必見、『ルネサンスって何?』と少し突っ込んで足を踏み入れたい方も必見、美術史家にとっては聖地とも言わる、フィレンツェ・サンタ マリア デル カルミネ教会・ブランカッチ礼拝堂で マザッチョが手掛けた壁画です。

『ルネサンス』という新たな時代の芸術潮流を推進した各分野の御三家アーティスト、ブルネッレスキ(建築家)・ドナテッロ(彫刻家)・マザッチョ(絵画)、絵画分野で最新技術の遠近法を取り入れ、現実的な人体描写など 新たな表現を切り開いたという、このマザッチョです。

1401年生まれのマザッチョが20代半ば頃に手掛けたこの作品、その後続くルネサンスの芸術家・巨匠たちもこの作品を見て研究し、参考にしたという大変重要な意味を持っています。

あの大巨匠ミケランジェロも若き頃、このブランカッチ礼拝堂にやってきて、マザッチョ作品を模写して学んだそうです。

そのミケランジェロでさえ、たぶん、壁画を見たのは下から見上げてだと思われます。

壁画制作時か、何らかの理由で壁面を修理・改変するか、現代のように芸術作品を修復するため、以外に礼拝堂内に足場を組んだり、はしごをかけるということは絶対にないからです。

ブランカッチ礼拝堂壁画は2022年1月から修復処置が開始され、修復にかかる期間は約1年間と予定されています。この修復のための足場を利用して、完全予約制で誰でも足場に上って壁画を間近で見学することができるのです!!!

ブランカッチ礼拝堂【特別見学】-予約方法(2022年)

2022年6・7月現在、予約見学日は金・土・日・月 の週4日、各時間帯10人限定となっています。(毎月18日頃、翌月分予約枠が解禁されます。)

金・土・月 10:00-17:00

日 13:00-17:00 

料金: 大人 10ユーロ+予約手数料 1ユーロ

    18歳-25歳 7ユーロ+予約手数料 1ユーロ

    17歳以下の子供 無料

予約サイト:ブランカッチ礼拝堂【特別見学】 予約 

インフォメーションサイト:Mus.E ブランカッチ礼拝堂【特別見学 

(*どちらもフィレンツェ市のオフィシャル予約サイトです。メニューより表示言語:英語選べます)

ブランカッチ礼拝堂壁画 見どころは?

まずは3つだけ、ここをつかんでおこう!というシーンをご紹介します。

  • マザッチョ作 【楽園追放】
  • マゾリーノ作 【アダムとイブの誘惑】
  • マザッチョ  【貢の銭】

まずは冒頭の作品 マザッチョ作【楽園追放】

裸の男女はアダムとイブ、神が創った最初の人類です。アダムは顔を伏せて嗚咽しているような、イブは声をあげて泣いているような、とても激しい感情をあらわしています。神の楽園に住んでいた2人は、ある日、蛇にそそのかされて神のいいつけを破り、唯一食べてはいけないと言われていた禁断の『知恵の木』の実を食べてしまいました。それはすぐに神の知るところとなり、二人は炎の剣を持つ天使に追い立てられて、楽園から追い出されてしまいました。激しい絶望と嗚咽する声が聞こえてきそうです。

キリスト教の宗教作品の中で、これほど激しい、生々しい感情表現はこれまでありませんでした。

また、自然でリアルな肉体表現、人体解剖的にかなった筋肉の動きと動作が正確に表わされているというのも、当時は全く目新しいことでした。

マゾリーノ作 【アダムとイブの誘惑】

あらゆる植物が生える神の楽園で、不自由なく満たされ平和に過ごしていたアダムとイブ。ただ一つ、『知恵の木』の実だけは食べてはいけない、と言われていたのに・・・悪賢く、イブをそそのかした蛇は女性の顔。イブと目を見合わせ、つられて一緒に木の実を食べてしまうアダム。知恵の木の実はここではイチジクとして描かれています。ダメと言われると余計にやってみたくなってしまうのは、人間の根源的な弱さなのか、それともリスクを冒してまでも不可能なことに挑戦したくなる本能なのか。

マゾリーノの表現は前時代的、と言われますが、この二人が神の教えに背くという、もう2度と戻れない一歩を踏み出してしまう緊張を秘めたシーンは迫力がこもっています。

そして大巨匠ミケランジェロは ローマ・ヴァチカンのシスティーナ礼拝堂壁画にこのシーンを描いた際に、蛇の顔(上半身)が女性という表現を引き継いでいます。マゾリーノとマザッチョが壁画を手掛けてから約80年後のことです。

マザッチョ作 【貢の銭】

マザッチョの代表作として取り上げられるこのテーマは、255x598cmの画面の中に、3つのシーンが分けて描かれています。

新約聖書 マタイ福音書 17節に記されたエピソードです。

真ん中あたりの群衆は、イエスキリストと12使徒たち。キリスト教団が活動していたのはユダヤ教下の現イスラエルで、当時はローマ帝国の支配下にありました。ローマ帝国の収税役がやってきて、神殿税を請求します。ローマ帝国はユダヤの宗教体制に介入しない方針をとっていたので、宗教施設の神殿税はユダヤ体制側に奉納するはずのものでした。ですがここで、ローマ帝国が請求する税金を支払わないと断ることで、反ローマ派・体制違反者とみなされることを避けるため、税金を払うことを承諾します。

収税役にどう対応するか答えを求めた一番弟子ピエトロに、イエスは「湖に行って、最初に釣れた魚の口を開けてみなさい。そこに銀貨が見つかるから、それを税金として支払いなさい。」と言います。

かくして、壁画面:左端、湖のたもとで釣った魚の口を開けて銀貨を取り出そうとするピエトロが描かれています。

壁画面:右では、赤い服の収税役に、黄色マントのピエトロが銀貨を渡しているシーンが描かれています。

1つの画面内に、時間軸の異なる複数のシーンを描いていること(異時同図法と言います)、

画面真ん中で、12使徒たちに囲まれて立つイエスキリストの頭部を消失点とした一点透視図法を駆使して、2次元平面の絵画に、3次元的、現実のような見え方を実現していること、

1つの統一された光源を設定することで、光と影による演出効果で人体のボリュームを自然に描きだしていること、

これらがこの作品の特徴的な要素であり、マザッチョのすごいところ、と言われています。

ブランカッチ礼拝堂壁画とは?

フィレンツェの裕福な商人ブランカッチ家が、サンタ マリア デル カルミネ教会内に代々所有していた礼拝堂で、1424年にフェリーチェ・ブランカッチが マゾリーノとマザッチョ2人の画家に壁画制作を依頼しました。40代のマゾリーノと、20代初めのマザッチョという先輩後輩二人組です。

ブランカッチ家初代で依頼主フェリーチェの祖父:ピエトロにちなんで、壁画のテーマはイエス・キリストが一番信頼していた弟子、『聖ピエトロ(=聖ペトロ)の生涯』が選ばれました。

当時、芸術作品の制作は、親方と弟子、共同制作者同士が一緒に作業するので、お互いの作業箇所に違いが出ないよう手を混ぜ合って制作する、というのが普通でした。年長のマゾリーノの作風は前時代的、と言われていて、それに対して若手のマザッチョは革新的なので、壁面の中ではっきりとその作風の違い、どちらが(主に)描いたのか判別されている箇所もあれば、混ざり合っていてどちらと断定できない箇所もあります。

また、壁画が全面完成する前 1425年に、マゾリーノは別の依頼でハンガリーに旅立ってしまいました。(それもありだったんです。。)

さらに、新進気鋭の若手アーティスト マザッチョは、制作途中の1428年 27歳の若さで、おそらく疫病ペストで亡くなってしまいました。

しかも、1436年には 依頼主で当時フィレンツェ1裕福で力を持っていたフェリーチェ・ブランカッチは、反メディチ派閥として政争に敗れ、フィレンツェ共和国から追放処分にされてしまいました。

一族の名前も永久に削除され、ブランカッチ礼拝堂壁画に描かれていた本人・親族・同派閥の人物肖像も消されてしまいます。

その後50年ほどが経ち、手つかずに途中放棄されていた壁画を、フィリッピーノ・リッピという画家が完成させました。レオナルド・ダ・ヴィンチと同世代の画家です。初期ルネサンス時代の先達:マザッチョの作風と自分が描く部分の差が出ないように配慮したそうですが、それでもやはり、違いは見られます。

フィリッピーノ・リッピが手掛けた部分『テオフィルスの息子の蘇生』

教会内のブランカッチ礼拝堂という小さな一角に、ブランカッチ家一族の栄枯盛衰、フィレンツェの歴史、先輩後輩画家の共同作業、ルネサンスという新たな芸術潮流の息吹、イエス・キリストからキリスト教会を託された聖ピエトロの生涯のストーリーと・・見どころ盛りだくさんです!!

まさに小さな宝石箱。

修復が終わり、足場が撤去されたらまた元通り、礼拝堂全体を下から見上げる状態に戻ります。

可能であればぜひ、マザッチョの壁画に目の前で触れられるという この素晴らしい機会をご利用ください!!

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